「転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。~私は研究したいので、求婚はポーション一個分より重くなってから!~」目次

「結婚しようか」
「……は?」
伯爵家のご令嬢イサーラにはある悩みがあり、それゆえに婚約破棄されてしまった過去があった。 しかし聖女の残したポーション薬学と出会い、イサーラは救われた。 以後ポーション研究に没頭していたが、ある日、やたらと美形に育った幼馴染み(初恋相手にして失恋相手)にとんでもないことを言われ…?
結婚なんてありえないと断る令嬢と、斜め上の言動で押し迫る幼なじみとのずれた攻防戦。
完結済:全話(初出:2018年11月23日~2018年12月01日)

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。1

    「結婚しようか」 少し遠出しようか、とでも言うような口調だった。 イサーラは男を睨んでいたので、その言葉の意味を理解するまで数秒かかった。 そしてようやく理解したとたん、「……は?」 そんな間抜けな声が出た。  ◆  イ…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。2

     イサーラはぐっと拳を握った。 この色鮮やかな液体たちは、むろん絵の具を溶かした水などではない。 ――薬水瓶ポーションなのである。 薬効を持つ各種植物の部位あるいは動物の部位などを乾燥させたり混ぜたり煮つめたりして、いくつかの工程の末にでき…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。3

    「ちょ、ちょっと、ハリエットと付き合いはじめたのって三ヶ月前からって……」「そうだったっけ」 ジュリオは不思議そうな顔をする。もはや興味を失っていると言わんばかりの様子だ。 ハリエットという女性とは友人でもなんでもないが、こんな態度をとられ…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。4

     この世界にニホンジンなどという部族はいない。歴史の中にもない。 だが未開の部族とは思えなかった。 彼らの文明においては、森や木はほとんど見えなかった。土すらも。 あるのは鋼鉄とか鉱石で建てたとしか思えぬ四角張った建造物の数々と、夜なのに明…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。5

     イサーラの心臓がはねた。 突然触れられ、同時に突然心の中に踏み込まれた。 ――どこからそれを。よりによってこの男がなぜ知っている。 だがいまは、ジュリオの食い下がり方が頭に来る。 顔を上げ、灰色の瞳を睨んだ。「……どこから聞いたの、それ」…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。6

    「用件はこれ? なら済んだでしょ、帰って」「ええっ? こんな簡単に……」「こんな簡単に切り出したのはあなたのほうでしょ」 サラは犬を追い払うように手を振って、さあもう帰って、と繰り返した。 ここまですれば普通の男は怒って出て行きでもするだろ…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。7

     イサーラの前世であるところの、ニホンジンの女性――は、やりたいことが見つからずに若くして死んだらしかった。 夢の中で、女性は朝から晩まで同じ場所に行って同じようなことをして、夜に帰る。 小さな、ちょうどこの小屋のような家に。家というよりは…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。8

     イサーラは遅れてうろたえはじめた。 あれから両親を問い詰めてみたが、別段、ジュリオに念入りに頼んだとか、娘を頼むなどといった覚えはないという。 ジュリオ君優しいね、などと見当違いの答えが返ってきたほどだった。 いまいましいことに、ジュリオ…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。9

     その日、イサーラはいつもと同じく“研究所”にこもって、奥の机に座り、経過観察の記録、及び実験記録の整理をしていた。「サラー」 そんな声と共に、背にのしっと寄りかかってくるものがあった。重い。大きい。 こんな子供っぽいことをする人間は一人も…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。10

     イサーラはどきりとした。 最終目的――ポーションの完成。販売。 そのための資金。資産。ジュリオの――実家の持つ巨万の富。(……ジュリオと結婚したら) 資金問題は一挙に片付く。ポーションの販売に関する問題は解消される。 やりたいことが、夢が…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。11

    「それはねえ、間違いなく、ただの未練ね」 友人の力強い断言に、イサーラはクッキーをかじる手を一瞬止めた。 ある日の午後、イサーラは数少ない友人の自宅に招かれ、久しぶりに近況報告をしていた。 この理解ある友人はポーションに熱中しているイサーラ…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。12

     要するに未練、蒐集家的性質であると友人に断定されたあとも、当のジュリオはイサーラの研究所を訪れた。 暇を持て余した子供のように――実際は暇と金を持て余した青年貴族である――ジュリオはその日もやってきては、ぼんやりと棚を眺めたり、作業机に頬…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。13

     価値の違い。 イサーラの放ったその言葉が、夢遊病者のように歩くジュリオの頭の中で反響していた。 外はまだ明るい。早々に叩き出されたジュリオを、陽光が嘲笑っているかのようだった。 もうここには来ないでと言われ、小屋を追い出されてしまった。 …

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。14

     自分をサラなどという愛称で呼ぶ男は一人しかいない。 イサーラは信じられない思いで振り向く。そしてぎょっと目を剥いた。 案の定、そこには幼なじみのあの男がいた。 しかし一瞬目を疑ったのは、ジュリオの正装をほとんどはじめて見たからだった。 隙…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。15

    (う……) 何か、抗えぬ力に握られてしまったようだった。鼓動が速まる。 だがイサーラはそれにまけじと口の端を急降下させる。 内側で収縮した何かをむりやり解く。(……こういう、男だ、ジュリオは!!) 自分に厳しくそう言い聞かせた。 ――そう、…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。16

     ――一月が、何事もなく過ぎた。 イサーラは黙々と日課をこなし、日々を過ごした。 あの夜会以降、ジュリオは姿を見せなくなった。 資金の問題はいまだ厳然とそこに横たわっていたが、一日二日で解決できるものでもない。長期的な目で見なければならない…

  • 転生令嬢、幼馴染みの貴族から結婚を迫られる。17

     低い、別人みたいな声が落ちた。唇が笑っている。けれどその目は笑っていない。 イサーラは息を止める。 聞いてない、と頭のどこかで声がした。 こんなジュリオは聞いてない。――知らない。 雑にまとめたせいでこめかみに一筋こぼれていた髪を、ジュリ…

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