短編小説

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追放された元テイマー、最強に育てた義妹が敗れたので真の力を解放する。5

「リュフェスくーん!」「ぅごっ」 どん、と後ろから勢いよくぶつかられ、リュフェスは危うく前のめりになった。驚いた小鳥たちが、羽音をたてて飛び立っていく。 むにゅ、とやけに柔らかく妙な重さを持つものを背中にあてられる。「うふふ。哀愁漂う背中ね…

追放された元テイマー、最強に育てた義妹が敗れたので真の力を解放する。4

「お、おいジャンヌ!? 何やって……」「う、うるさいな! 見ての通り寝込みを襲ってるの! 隙ありすぎ! それでも元探索者なの!?」 怒られたあげく、脇の下をくぐって伸びる白い手にぎゅうぎゅうと抱きつかれ、リュフェスは慌てた。「な、なんだよ。…

追放された元テイマー、最強に育てた義妹が敗れたので真の力を解放する。3

 十年前、たった一人の友と呼べた男と死別し、その男のたった一人の肉親であるジャンヌを託され、リュフェスは必死にジャンヌを育ててきた。長かったような気もするし、あっという間だったような気もする。 幼い頃、お兄ちゃんは、と目を潤ませながら不安げ…

追放された元テイマー、最強に育てた義妹が敗れたので真の力を解放する。2

 酒場から追い出されるようにして、リュフェスは文字通り昼時の大通りへ転がり出た。矢のかすった傷の他に、打撲や擦過傷で全身が軋む。(くそ……!!) 痛みで吐きそうになりながらも身を起こす。迷宮探索者の集まる酒場は、血気盛んな連中が多い。ルーフ…

追放された元テイマー、最強に育てた義妹が敗れたので真の力を解放する。1

「失せろ」 テオはいつものような不機嫌な声で、短く言った。「お荷物はもう要らない」 余地を残さない言い方だった。 テオの隣で、濃緑の髪をしたロレットがくすくすと嗤った。 テオの向かいの席に座る禿頭の男・ルーフォは常通り無口だが、寡黙というよ…

「追放された元テイマー、最強に育てた義妹が敗れたので真の力を解放する。~不遇な男の覚醒と前代未聞のスキル~」目次

テイマーだったリュフェスは、役立たずとしてパーティから追放された。その後、引退したリュフェスは、亡き友の妹を引き取って育てていた。育てた義妹は美しい天才剣士になり、ダンジョンに挑戦することに。義妹を見送り、自分はスローライフをするつもりでいたリュフェスのもとに、信じられない知らせが飛び込む。そこで見たのは変わり果てた義妹の姿だった。

氷の国の王3

 メルシェは息を呑みました。 目覚めたとき、枕元にあった一輪の不思議な花。 目を覚ますと同時に見る見るうちに枯れていった哀れな花を思い出したのです。 あれが雪吸い草だったに違いありません。 メルシェは胸が詰まるような思いでした。 ――ありが…

氷の国の王2

 ――娘よ、起きなさい。 厳しく、しかし優しい低い声が妹の耳に降りました。 生きることをやめた妹はそれを無視しようとしました。しかしまるで不思議な力に誘われるかのように、妹はゆっくりと眼を開けたのです。 ぼやけた視界で、雪にまみれた縦長の白…

氷の国の王1

 人々が住む集落と「向こう側」を隔てるように、モーサバールという高い山がありました。 山の向こう側には、ぽつりと取り残された一つの国がありました。 高い山のために周囲は雪に覆われ、想像もつかぬほどの寒さと冷たさに囲まれたその国は、氷の国、雪…

ある令嬢と騎士の、悲しい恋の果て4

 元凶は私にありました。 私がまったく意図しない、望んですらいない形で。『あなたはかつて、原因不明の熱を出して伏せっていますね。実はその間に……《魔法》の力が発露していたらしいのです。このことは、ご両親と、彼しか知りません』 私は言葉を失い…

ある令嬢と騎士の、悲しい恋の果て3

 私の中の一縷いちるの望みは、そのときに砕けたように思います。 預けられた修道院が立派で、静かに過ごすには最適であったのが、彼なりの餞別だったのでしょうか。 あるいは単に、私のご先祖さまと縁のある修道院だっただけなのかもしれません。 当時の…