堕ちた聖女は贄の青年に誘われる7
完全に満ちた月が、煌々と地を照らす。 ヴィヴィアンのかすかな願いもむなしく、月を隠す一筋の雲さえなかった。 冷たく白い光が、あらゆる窓や隙間から侵入してくる。 厚いカーテンをしめて覆っても、完全には防げない。 調度品や家具を撤去した空き室…
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堕ちた聖女は贄の青年に誘われる6
ヴィヴィアンの体が震えた。心臓を鷲掴みにされたかのように息が詰まる。 ――ジュリアス。 自分を排除しようとする者たちから、護ってくれた。かつての婚約者。離れていても、ずっと気にかけてくれている。 だから、いつか。 いつか彼が迎えに来てくれ…
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堕ちた聖女は贄の青年に誘われる5
不吉な予感が胸にあった。本土にいて、《血塗れの聖女》の管理を一任されているのは彼だ。 だがそのジュリアスに何かがあり、管理体制が変わった――ということはありえるだろうか。贄などというものが送られてきたのは、別人の意図によるものなのか。 そ…
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堕ちた聖女は贄の青年に誘われる4
その声は、歪なまでに優しく響き、ヴィヴィアンの背を凍りつかせた。 視界が揺れる。 足元がふらつき、後退する。 目の前の、見るからに丸腰で手枷すらつけられた青年が、急に暗く膨張して見えた。「……あなたは、復讐のためにここへやってきたの」 ヴ…
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堕ちた聖女は贄の青年に誘われる3
「俺を多少でも人間扱いする気があるなら、タウィーザと呼んでくれ」 気さくというには少し棘の強すぎる口調で、青年――タウィーザは言った。 強がっているようにも見えない。 テーブルを挟んで、向かい合うようにしてタウィーザとヴィヴィアンは座ってい…
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堕ちた聖女は贄の青年に誘われる2
――夢。過去。現実。 冷たい月が頭上で輝いている。地上でもがくたった一人だけをさらしせせら笑うように。 ヴィヴィアンの中ですべてが境界をなくし、曖昧さの中に意識が飲み込まれていた。 争乱の音が聞こえてくる。 騎馬兵が大地を揺るがす音。歩…
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堕ちた聖女は贄の青年に誘われる1
「吸えよ」 青年は冷ややかに言った。冷たく、青白く光る目が見下ろしている。 ヴィヴィアンは肺を病んだ老人のような息をし、握った両手に必死に力をこめた。だがそれは情けないほど 痙攣けいれんし、“飢え”が一瞬ごとに悪化していることを知らしめる。…
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「堕ちた聖女は贄の青年に誘われる」目次
「俺は贄だ。あんたのためのな」かつてヴィヴィアンは救国の聖女だった。だがある禁忌を犯していたため、婚約破棄され、表舞台から姿を消した。追放も同然の身となり、人から隔離された小島で日々を過ごす。そんなある日、見知らぬ美しい青年が奴隷としてヴィ…
堕ちた聖女は贄の青年に誘われるシリアス,ダーク,ファンタジー,作品目次,執着,女性主人公,婚約破棄,聖女