妹のため婚約破棄した令嬢を、坂の上で待つ人は8
――醜いわたしの本音。 吐き出した言葉を消し去ることはもうできない。「傷痕として永遠に、揺るがぬものになれる。フォシアにとって……ヴィートにとって。わたしはただ、そうなりたかったの」 最後の言葉まで吐き出したとき、胸のつかえがとれたような…
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妹のため婚約破棄した令嬢を、坂の上で待つ人は7
「誰もが、フォシアとあなたのほうがお似合いだと言った。フォシアはわたしより遙かに美しく、太陽のように輝いている。わたしはその影で、みなが太陽に惹きつけられる中で見向きもされない」「……くだらない、愚かな噂だ」 ヴィートは切り捨てるように言っ…
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妹のため婚約破棄した令嬢を、坂の上で待つ人は6
ひゅっとヴィートが息を飲んだのが聞こえた。太めの形の良い眉がはねあがり、はっきりと嫌悪と怒りを露にする。「まさか、それじゃエイブラどもと変わらない――」 わたしはすぐに頭を振った。「……自分の汚らわしい欲望のためにバーナード氏はそう言った…
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妹のため婚約破棄した令嬢を、坂の上で待つ人は5
ヴィートが大きく目を瞠った。困惑、驚愕――かすかに息を飲み、それから彼もまた顔を歪めた。まさか、と低い声がこぼれる。「フォシアは嫌がったわ。とても。エイブラの息子は、いかにも将来を約束するというふうで何人もの令嬢に近づいては、もてあそんで…
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妹のため婚約破棄した令嬢を、坂の上で待つ人は4
唐突に左腕をつかまれ、わたしはびくっと震えた。顔を上げる。ヴィートの目と絡み合う。穏やかな色に見えたヘイゼルが、いまはなぜか仄暗く冷たさを帯びている。「待つのは、もうやめる」 そう言って、ヴィートはわたしの腕をつかんだまま動く。坂の下へ―…
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妹のため婚約破棄した令嬢を、坂の上で待つ人は3
ヴィートが、うなるようにこぼす。 わたしは思わず息を止めた。「……そうなんだな。いつも、そうだ。わけのわからない冤罪を被ってまですべてを捨てようとしてるのは、フォシアのためだ」 ――かつ、と小さな音がした。 その音に弾かれて、わたしは顔を…
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妹のため婚約破棄した令嬢を、坂の上で待つ人は2
白昼夢でも見ているのではないかと思う。だって彼がこんなところにいるなんておかしい――。 坂道をのぼったからではない動悸がたちまちわたしの体の中で反響する。 彼の強い視線から逃れるように、地面を見つめた。 ヴィートは美しい青年に成長したけれ…
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妹のため婚約破棄した令嬢を、坂の上で待つ人は1
「そういうルキアが嫌いだ」 口下手な婚約者が顔を歪めてそう言ったとき、わたしは雷の直撃を受けたような衝撃を受けた。 彼がこんなはっきりとした言葉を、感情を突きつけてくるのははじめてだった。 なのに粉々に砕けた心の中で、皮肉にも揺れていた決意…
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