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婚約破棄された令嬢は、灰の貴公子に救われる6

 エイブラとアイザック側の怒りを買うことは、フォシアにも予想はできた。 だが、それだけだった。向こうが諦めてくれない・・・・・・・などとは思いもよらなかった。『愚かな選択だ。なぜそのような決断をするのか理解に苦しむ』 そう言ったエイブラの、…

婚約破棄された令嬢は、灰の貴公子に救われる5

 そう言われた瞬間、フォシアの全身は総毛立った。 悪い話ではないはずです――エイブラは、両家の婚姻についての利点を滔々とうとうと語った。そこには隠しきれない自信が滲んでいた。 比べものにならぬほど莫大な財産を持つエイブラ側と、ただの中堅貴族…

婚約破棄された令嬢は、灰の貴公子に救われる4

 フォシアが夜会などに参加した後、異性から手紙や贈りものを送られるのはよくあることだった。フォシアはすべて親や乳母、そして姉に相談しながら、礼を失しない程度にそれらに対応した。ほとんどはどれも、婉曲に断るものだ。 だからアイザックという男か…

婚約破棄された令嬢は、灰の貴公子に救われる3

 その日は雲一つない晴天で、まるで新たな夫婦の新たな人生を祝うかのようだった。「――おめでとう、ヴィート、ルキア!」 列をなして新郎新婦を迎える人々の合唱が響き渡る。 フォシアもまた、両親とともに祝福の列にいた。泣いてすっかり目は腫れて、お…

婚約破棄された令嬢は、灰の貴公子に救われる2

 両親が忙しく次の縁談を探しているのを、フォシアは漠然と傍観していた。 今年一六になったフォシアは結婚適齢期の最中にあり、ここから二、三年は目まぐるしくこういった話が出るに違いなかった。 フォシアの美貌は、婚約破棄というちょっとした醜聞も覆…

婚約破棄された令嬢は、灰の貴公子に救われる1

「君との婚約はなかったことにさせてもらう」 男はことさら低く突き放すような声で言い放ち、冷ややかな目でフォシアを睥睨した。 熱心な愛の言葉を吐いていた口からもはや熱を感じることはなく、ひたむきにフォシアを見つめていた瞳はいま、一転してかすか…