その伯爵家には二人の姉妹がいる。
たいそう噂になっている姉妹である。
なぜよく噂になるかというと、きわめて特徴的な姉妹だからであった。
姉の名はグリシーヌ。妹の名はロジエという。
二人はきわめて対照的で、曰く――グリシーヌは“悪魔のような”姉であり、ロジエは“天使のような”妹であるという。
天使のような妹は社交界の華としてもてはやされた。
一方、姉のほうは決して醜くはなかったが、華と呼べるほどではない。
すると姉は妹に嫉妬して、妹の崇拝者すべてに恨むような眼差しを投げかけるようになったという。
だからこのたび、ロジエが貴公子の中の貴公子と呼ばれるかのオリヴァー卿と婚約するとの噂がたったとき、グリシーヌは嫉妬のあまり露骨な妨害工作に出たのだ――。
ロジエの保護者役として厚顔無恥にも堂々とついて回り、ことごとく二人の仲を裂こうとしたのである。
するとさすがの貴公子も乱心したのか、あるいは心優しき薔薇の天使が気後れして姉に譲ったのか、のちにオリヴァーとロジエの婚約は破談となった。
その後オリヴァーは、誰もが予想しえなかったグリシーヌとの婚約に至った。
あの“夢のような”貴公子が、“悪魔のような”姉に惑わされてしまったのか――一時期は誹謗中傷まがいの噂が立った。
――それが急速に収束し、別の噂にとってかわられたのは、オリヴァーとグリシーヌの婚約後間もなくのことであった。
薔薇の代わりにその姉を伴って様々な場に姿を現した貴公子は、いたってにこやかにこう言い放ったという。
「彼女は私の守護天使です。彼女はかつて薔薇の妖精についた守護天使でしたが、私は天使に心を奪われてしまったのです。どうしても彼女が欲しくなって、なりふりかまわず口説き落として私のものにしたのですよ」
薔薇の妖精は寛大にも私を許し、天使は哀れんで私のもとに下りてきてくれました――と貴公子はこれまでになく甘く幸せそうな顔で語った。
あ然とする聞き手は、貴公子の隣で真っ赤になってうつむく天使を見たといい、それはとても“悪魔のような”姉には見えなかったのだと言う。
こうして、“悪魔のような”姉と“天使のような”妹は、いつしか“藤色の目の天使”と“薔薇色の天使”になってしまった。