見習い聖女のアルジェティは、ようやく一人前の聖女として癒しの力を授かるはずだった。
だが授かったのはまさかの「もふもふ狼になってしまう呪い」
呪われた者として追われて逃げ、人間嫌いと噂の魔術師に助けを求める。
しかし魔術師に会うと、その正体は背も美貌も成長した幼馴染・ノクスだった。
ノクスは冷たくアルジェティを門前払いにするが、狼の姿を見たとたん、豹変する。
アルジェティはもふもふを利用して取引を持ち掛け…?
もふもふのせいで迫られまくる聖女と、もふもふ好き変人魔術師のラブコメファンタジー。
初出 2020年 08月21日(「小説家になろう」)
もふもふの呪いで追われた聖女ですが、人間嫌いな魔術師に助けを求めたら執着(?)されました。1
(いよいよだな) アルジェティの胸はいよいよ高鳴った。 ようやく、ようやく本物の聖女になれる。 この神殿に入って八年、今年でもう二一になる。村を出たときに肩までしかなかった銀色の髪は腰に届くほどになって三つ編みにし、日に焼けていた肌も白くな…
もふもふの呪いで追われた聖女ですが、人間嫌いな魔術師に助けを求めたら執着(?)されました。2
駆けて、駆けて、駆け続けた。 人の限界をとうに超えて、神殿の外へ、市街地を駆け抜け、人の営みから遠いところへ――森の中へ。 縦に長いわりに体力がない、などと笑われたことを思い出した。 それがいまひどく懐かしく愛おしく、遠い。(誰か……っ)…
もふもふの呪いで追われた聖女ですが、人間嫌いな魔術師に助けを求めたら執着(?)されました。3
長身を重たげな暗色のローブで包み、神秘的な緑色の瞳がアルジェティを見下ろしていた。 右耳の下あたりでゆるく束ねられた髪は長く、黒々とした艶を放っている。深い目を囲む睫毛も長く、濡れたような輝きがあった。 髪の色によく合った浅黒い肌に、彫り…
もふもふの呪いで追われた聖女ですが、人間嫌いな魔術師に助けを求めたら執着(?)されました。4
「……おいノクス」「……」「ノクス、返事をしろ」「狼……」「わ、私をそんな目で見るな!! それは私のほうがしたい顔だ!!」 陰鬱に沈んだ緑色の目にじっとりと睨まれ、アルジェティは憤慨した。 しかし頬はいまだに熱いし、ほとんどはぎ取るようにし…
もふもふの呪いで追われた聖女ですが、人間嫌いな魔術師に助けを求めたら執着(?)されました。5
背がぞくりとするような、わずかに青みがかった緑色の目。 艶やかな黒髪の魔術師はいつの間にか至近距離にいて、右腕を伸ばして扉を抑えていた。 その間にいたアルジェティは、いつのまにか閉じ込められるような形になっている。 多くの男を見下ろせる目…
もふもふの呪いで追われた聖女ですが、人間嫌いな魔術師に助けを求めたら執着(?)されました。6
「……」「……」 小さなテーブルに向き合い、二人は黙々と食べる。豆と野菜の簡素なスープ。 神殿の粗食に慣れたアルジェティにはほとんどいつもとかわらぬ食事だった。 木製の匙で口に運びながら、アルジェティはそろりと相手を見た。 ノクスは相変わら…
もふもふの呪いで追われた聖女ですが、人間嫌いな魔術師に助けを求めたら執着(?)されました。7
うっとりとした熱い吐息を首筋に間近に感じ、アルジェティは思わず身震いした。 抱きしめられ、密着する体に眩暈がする。心臓が激しく脈打ち、その音が向こうに聞こえてしまうかもしれない。 神殿にこもり、清らかな生活をしていた頃からは考えられない不…